中学の時、いつものように彼の部屋へ遊びに行った際、なにげにステレオの脇に置いてあったデザインの本を手にした。今から思えば「プッシュピン・スタジオ」に関連した作品集だったと思う。その中のシーモア・クワストというアートディレクターを彼は気に入っていたようだ。漫画ばかり自作で描いていた私がデザインと言う概念に最初に触れたのは、その時だったかも知れない。時間も忘れ作品集に見入っていた私に彼はそっと「こんな仕事エエと思えへんか?」。そう、アイツが言い始めたことだ。デザイナーになろうと。それから二人ともデザインが生活の一部になり、寝るのも惜しんでデザインを勉強し、計画通りに進んだかは別として、とにかくデザインの仕事に就いた。しかし一年後、彼はデザイナーを辞め私達をも避けるようになる。
「ともだち」との別離など、それまでにも何度もくり返していたし、未練や寂しさなど覚えたことはなかった。例えるなら、オチのあと「もうキミとはやってられんわ」ぐらいの捨て台詞を残したヤツを笑顔で送り出すくらいの気分だ。しかし彼とはお互いが目指した初舞台にのぼって、一度ボケた途端にオチもなく「もうやってられんわ」と勝手に舞台を降りて行ってしまった感じだ。