そう言えば最近、私だけに限らずバーチャルな「現実」に対応できるほど脳ミソは器用になってきている。ペラペラのメディアに収めてプロジェクターで再生すれば、おそらくいつでも同等の追体験が可能だし、その程度でも満足ができるようになってしまった。しかし今回受けたこの体感は、はっきり言って不可能だ。何故だろう。あのコキコキとした奇妙な動きを見ていると、研ぎすまれたシルエットはさらにシンプルさを増し、一本の線となって、もはやそれはコマ割りのアニメーションを連想させる。まるでステージを紙芝居の枠に見立てたパラパラ漫画のようだ。追体験に慣れ親しんだ脳ミソでも、そんなものを映像で観せられると10分と待たずにタバコへと手が伸び、暇を持て余すだけだろう。空間というものを削ぎ取る事で、こうも違ったモノに映ってしまう事に驚いている。そうか、どんなメディアにも収まらりきらない再生不可能な、これは唯一のエンターテイメントではないだろうかと思えてきた。そして生身の人間からでしか得られないそのスケール感の中には、芸術と呼ぶに相応しい底の知れない怪物が確かに潜んでいる。