さて、奇跡的に高校生になることができた私はご多分に漏れず、気が付けば不良グループの末席を陣取っていた。これがおかしな話で不良グループに好かれてしまったというか、不思議な出会いだ。そもそも入学当時、校則で禁じられている無駄にタテヨコ大きめの制服と、右側頭部にあるメッシュに見間違えるえるほどキレイに生えそろった若白髪と、アイパーに気合いを入れすぎた剃り込みで、たかが一年早く生まれてきただけの連中の格好の餌食になり、毎日のように殴られる日々を送っていた。そんな入学まもなくすでに嫌気がさしていた頃、あれは確か音楽の自習の時か何かでクラスの連中と時間を潰していた時の事だ。特に披露する気もなかったのだが、やることもないので音楽室にあるピアノを少し弾いてみた。想像して欲しい。いかにも不出来なヤツが流暢にソナタを奏でている姿を。雁首そろえて何か面白い事はないかとヨダレを垂らしている連中のなかにあって、まさに面白そうな事がいま目の前に現れたのだ。やおらピアノの周りに人垣ができた。ちょっと恥ずかしくもなり止めようとすると、「もっと何か弾いてぇな」とのリクエスト。「いや、いや」と別にもったいぶるほどの事でもないので「では、では」とビートルズのピアノナンバーを披露することになった。すると自然と手拍子を交え、歌えるフレーズが来ると皆が歌い出し、金八先生もビックリの古い青春ドラマのようになってしまった。この事は少し誇らしかったが、それよりも今まで私を遠ざけていた連中も何かにつけ声をかけてくるようになった事で、少なくともこれからの高校生活を楽しく送る気になれた。