決して彼は親分肌のような面倒見のいい男と言うわけではない。どちらかというと群れないタイプの男で、仲間にもどこか面倒くさそうな仕草をいつもしていた。普段から独りで自分の頭の中を冒険していて、何かを発見するたびに「こんな素敵な事がある」と、そっと教えてくれた。その発見はいつもくだらない物が多かったが、くだらないもの程、なぜか虜になった。そんな彼の「くだらない発見」をいつも楽しみにしていたからか、いつのまにか彼を誰よりも理解できるようになっていた気がする。まるでお互いにしか見えないグローブでキャッチボールをしているみたいだった。二人だけの時に会話をほとんど必要としなかったのは、きっとそのせいだろう。
人生において一人や二人、「コイツにはかなわない」と思わせる人物が必ずどこかに居ると言うが、私の場合、まさに彼がその一人で、幸か不幸かわずか八歳にも満たない年齢で、そんなヤツに出会ってしまった。だがあるとき彼の音信がピタリと途絶えてしまう。それは、お互いが社会へ放り出された矢先の頃だ。